「勇はその・・・どんな女の子が好きなの?」

学校からの帰り道。住宅街の真中にある坂を登りつつ、稲垣八重は親友であり、密かな思い人でもある仁科勇に質問を投げかける。登り坂で少々息を荒げている勇は突然の質問に、首を傾げて考え込む。

「んー、そうだな・・・」
「やっぱり、おとなしい子の方が好きなのかな?」

八重は何気ないふりを装いつつ、一番気になる事を彼に尋ねる。それでも声が震えるのを隠しきれていない。しかし普段からマイペースを貫いて生きている勇に気付かれた気配は無い。

「どちらかと言えばそうだね」
「うん・・・やっぱり」

予想していた答えとはいえ、八重は失望の色を隠し切れない。

「清純そうな子だとか・・・」

それでも彼女は更に質問を重ねる。たとえそれが自分を苦しめる事を分かっていたとしても・・・。

「うん、うん。やっぱりそうでなくちゃね」
「頭が悪い子は嫌い?」
「それなら、やっぱり頭がいい子が好きだね」
「わがままな子は?」
「うーん・・・はっきり言って嫌いだな・・・」
「乱暴する子は?」
「論外だね」

既に予想していたとはいえ、恐れていた事が現実に起きて八重の心は強く打ちのめされる。彼女の目の前が一瞬、暗転する。

「そうか・・・それで一番好きなタイプは?」
「うむむむ・・・そうだねー」

八重の沈んだ調子の声にも気付かず、勇は真剣に自分の好きな女性のタイプが何か考え始める。

「やはり・・・」
「やはり?」
「メイドさんでしょう」

勇はのほほんと表現するような感じで、自分の好みを告げる。それに対して八重は一瞬、何を言われたのを分からないような顔をしていたが、すぐに言い知れぬ怒りが体を一気に満たすのを感じる。

「勇の・・・」
「ん?どうしたの」
「勇のバカヤロウゥ」

八重は左足の踏み込みで体の捻りを生みつつ、全体重をかけた渾身の右ストレートの一撃で勇の左頬を捕らえる。その強烈な打撃に彼の体が独楽のようにくるりくるりと路上で回転する。

「ううぅ・・・」

八重は地面に意識を失って倒れた勇を振り返りもせず、猛然と駆け出す。その瞳からは涙がつっと流れ落ちる。それから二十分、通りかかったサラリーマンに揺り起こされるまで、勇は失神し続ける事になった。

八重と勇は中学からの付き合いである。明るく、ざっくばらんな性格で、少し乱暴なところがある八重は、小学校の頃からあまり友人が居なかったのだが、のん気でマイペースな勇と気が合って親友となった。二人は休日などもよく遊んだり、勉強を協力したりして三年を過ごした。高校も自然に同じ学校を選ぶ事となったのは当然かもしれない。

八重が勇を意識し始めたのは、つい最近のことだ。彼が肩を叩いてきたり、腕を引っ張ったりする時に自分の鼓動が速まるのを感じたりする自分に気付いたのだ。最初はその感情に戸惑ったのだが、夢にまで現れたり、勇の都合で会えない時に酷くガッカリしたり、常に彼のことが頭の片隅にあることで八重はその感情を肯定せざるを得なかった。

彼女はその晩、相手にその気がまったく無いと思いこみ、枕を止めど無く流れる涙で濡らした。よく分からない憤りに翻弄され、自分が酷く惨めだった。

翌日、八重はかなり深刻で暗い顔をして学校に登校して来た。昨夜、遅くまで泣いていて眠る事が出来なかったのと、なにより勇と顔を合わせるのが嫌なのだ。昨晩から夕飯を食べないなどの只ならぬ様子に、彼女の母親は学校を休むかと聞いたのだが、病気でもないのに欠席するのは悪い気がした。彼女はそんな事をしたことが無いからだ。

八重は引き戸になっているクラスの入口の前に立つと、深い溜息をついて観念したように扉を横にスライドする。

「おーい八重。酷いじゃないか」

八重が一番会いたくない相手が能天気な声をかけてきた。疲れたように彼女が顔を上げて相手を見ると、勇は顔に巨大な包帯を斜めに巻き、頬を抑えている。

「ど、どうしたのよ、それ?」
「どうしたも何も、八重がやったんじゃないか。いきなり打つなんて酷いなあ」

ちょっと呆れたような顔を勇は見せるが、特に怒っている様子は無いようだ。八重は慌てて勇に近寄り、彼の頬を包帯の上から優しく触る。

「すごい張れ上がっちゃってさ。冷やしたりしても痛んで大変だったんだよ」
「あ、ご、ごめん。そんなに強く叩いたつもりじゃなかったんだけど・・・」

八重の言葉に、二人を見ながらクラスメートが声を潜めて会話しあう。

「そんなに強く叩かないで、あんなに張れ上がるか?」
「すげー力だよな」
「仁科君もよく彼女と付き合ってられるな」

同級生達の囁きに八重は見る見る顔が赤くなってくる。勇はそんなクラスメートの声にも構わず、友人に話しを続ける。

「俺、なにか八重に悪いことした?」
「い、いや、そ、そのね・・・」

済まなそうな顔をしている勇に、八重は大きな罪悪感を覚えてしまう。

「わ、私が悪かったの・・・」
「でも、殴られたのは俺だから悪いのは俺じゃないの?」
「う・・・その、ちょっとカッとしちゃったから・・・」
「何で?」
「・・・うぅ」

純粋は純粋でも極度に鈍感な相手に、八重は参ってしまう。かといって、相手にはっきりと告白するほど彼女は勇気が無い。自分が彼の好みのタイプでは無いことも知ってしまったからだ。メイドがどんな物かは、八重も知らないが・・・。

「と、とにかく謝ってるからいいでしょ」
「まあ、別にいいけど・・・」

いまだに疑問を持っているみたいな勇は、納得していない表情ながら引き下がる。そんな彼の態度に八重はホッとしながらも、何か残念なような気持ちが残った。

昼の休憩を告げるチャイムが鳴り響き、生徒達は一斉にそれぞれの友人としゃべり始める。八重も避けたかったのだが、他に話す相手もあまりいないので仕方なく親友である勇の席へと向かう。彼は机にだらりと上半身を預けており、すっかりだれている。こんな奴が自分は好きなのかと思うと、八重は少し疲れが移ったかのように感じる。

「うー、お腹が空いた・・・」
「食べればいいじゃない。今日は天気がいいから外で食べよう」
「うー」

相手の返答を待たず、八重は相手のカバンから弁当をあさると勇の腕を引っ張って立たせ、教室の外へと連れ出す。人が行き交う廊下を抜け、入口で下駄箱から靴を取り出して履き替え、芝生の方へと二人は向かって行く。

「あそこでいいわね」

八重は校舎から少し離れた花壇の近くに腰を下ろし、あまり元気が無い勇も座らせる。

「いっただきまーす」
「・・・いただきます」

八重は弁当を開け、集中して食べ始める。無意識に勇のことを考えまいとしているみたいだ。だが対照的に勇の方はあまり食が進まない。

「ん、どうしたの?あまり食べてないじゃないの」
「物を噛もうとすると痛いんだよ・・・」

勇は辛そうに包帯が巻いてある左頬を押さえる。

「うう、お腹は空いてるのに・・・」
「あ、ごめん」

勇はもどかしそうに箸でおかずをつまむが、口に持って行こうとはしない。そんな彼の様子に、八重はぐっと胸が痛む。

「なるべくゆっくり噛むようにしたら・・・」
「うん。わかってる・・・」

勇はゆっくりと噛もうと努力するがやはり痛む物は痛むらしく、すぐに顔を苦痛にしかめる。八重はどうすればいいのかわからないが、あまり自分では良くないと思っている頭でそれでも必死に考える。勇は既に食事をあきらめ、弁当を膝において少し恨めしそうに眺めている。

「そ、そうだ・・・」

八重の頭に妙案が神の采配か、唐突に浮かんだが、その考えに彼女は躊躇してしまう。しかし数少ない友人が自分のせいで苦しんでいるのを見過ごす訳にはいかないと、八重は決心を固める。

「ゆ、勇・・・これからお弁当を食べさせてあげるけど、誰にもこの事を話しちゃだめよ」
「え、どうする気なの?」

八重はキョロキョロと辺りを見回して、近くに人影がないのをまず確認する。そして彼女は勇の弁当に箸をつけて、ご飯を口に入れる。

「あ、八重、酷いや」
「しっ、静かにして」

八重は噛んだご飯をそっと箸で引きだし、勇の口元に持っていく。彼は目を丸くして八重の顔を見ると、彼女は頬を真っ赤にしながら早く食べろと目で訴えかける。勇は口を彼女の箸につけると、柔らかくなった白米をそっと飲みこむ。

柔らかくなったご飯やおかずを箸で運ぶのは容易な事ではない。崩れやすく、取りたてて器用と言う訳ではない八重にとっては困難な作業だ。そのため、少しでも料理を落とさないように彼女は勇にかなり近づく。いくら友人同士とはいえ、この異常な状況に二人の心臓はテンポを急速に上げ、恥ずかしさに顔が熟れたトマトのように真っ赤になっている。普段はマイペースを貫いている勇も、彼女の吐息をかなり意識してしまう。なんとも言えない感情が二人の心を大きく揺さぶる。時間としては短かったはずだが、二人はほぼ永遠とも言えるように感じていた。

「ど、どうもありがとう」
「わ、私のせいだからしょうがないわよ」

二人は食べ終わると若干の距離を取り、必死に心臓の動悸を止めようと運動したわけでもないのに荒い息を吐く。互いに相手の顔をまともに見れない。だが、流石に勇はマイペース人間だけあって、八重よりはるかに早く落ちつきを取り戻す。

「しかし、びっくりしたよ。まさかあんなことしてくれるとは思わなかったから」
「は、恥ずかしかったんだから。もう、言わないでよ」

八重はうつむいたまま、必死に呼吸を落ちつけようとするのだが、収まるどころかますます酸素が足りなくなっていく気がする。彼女の頭に繰り返し、さっきの光景が浮かんでは消えて行く。

「汚いとは思わなかったの?」
「八重の口だから汚いなんて思わなかったよ。それとも、口内炎でもあるの?」
「無いわよ、バカ」

八重の心は勇の言葉にどんどん翻弄されていく。自分の感情なのに、八重の心はまるでたけり狂う竜巻のように自分ではどうにも出来ない。かっと熱くなる胸を抑え、必死に押し止めようと試みる。

「ああメイドさんがいたら、またこういう事してくれるのかな」
「えっ?」

残念そうに小さく呟く勇に、八重は今まで逸らしていた視線を彼に転じる。

「メイドってこんな事までするの?」
「あれ、違うかな・・・」

八重の質問に、勇が腕を組んで首を傾げる。はっきり言って彼の考えは、広大な宇宙より大きな勘違いだ。

「ねえ、勇・・・」
「ん、何でしょう?」

八重の静かな呼びかけに勇は首を横に動かし、友人を見やる。彼女はうつむいており、柔らかな前髪に隠れてその表情を伺う事は出来ない。

「そ、その不便でしょうそんな怪我してると」
「まあ、けっこう痛むけど、別にそんなには・・・」
「しばらくの間、メイドになってもいいよ」

普段はおっとりして動じない勇だが、今日は二度も目を丸くする羽目になった。

「お待たせ、それじゃ行こう」
「ちょっと待って、銀行に寄っていいかな?」

務めて冷静さを装って下校しようとする八重に、勇は待ったをかける。

「何で?用事でもあるの」
「ちょっと、買いたい物があってさ、お金を下ろさないといけないんだ」
「ふーん、つきあうよ」

二人は校舎を出ると、勇の家とは少し方角が違う駅前に向かう。昼下がりのアーケード街は、彼らと同じような解放された学生がいっぱいだ。勇は大手銀行の支店に八重と一緒に入り、キャッシュディスペンサーで結構な額を下ろす。

「そんなに必要なの?」
「うん、ちょっとね」

八重は不思議そうに勇を見やるが、彼は包帯が大きく巻いてある顔で笑うだけだ。勇は銀行から出ると商店街の外れへと向かい、とある雑居ビルの入口へと入っていく。八重は彼が果たしてこんな所に用事があるのかと思いながらも、勇の後ろについて階段を昇って行く。勇はとあるフロアで止まり、中へと入っていく。

そこはアニメグッズ専門店らしく、アニメのポスターやグッズ、漫画などが所狭しと並んでいる。勇はそれらの物に目もくれず、入口で躊躇している八重を置いてけぼりにして、奥へとずかずかと入っていく。

「な・・・」

しばらくして勇はハンガーにかかっている黒色を基調とし、白いレースで装飾された俗にメイド服と呼ばれる服を持って戻ってくる。唖然としている八重が何か言う前に、彼はレジで支払いを済ませて戻ってくる。

「もしかしてそれ、私が着るわけ?」
「もちろん。我が家にメイドさんが来るっていうんだから、これくらいはしないと」

あっけにとられている八重の表情が目に入らないのか、勇は喜色満面という面持ちで笑っている。

「そんなの私・・・」
「八重だったら絶対に似合うよ」

こんな服でも思い人に似合うと言われれば悪い気がしない。八重はその後、猛烈な勇の押しにあっさりと屈服してしまった。

「うわー、すごいすごい」
「は、恥ずかしいんだけど・・・」

勇の部屋を借りて着替えた八重は、極端に短いスカートの裾についてるレースを指でいじりながら身をよじる。二人は店から最短のルートを通り、勇の家へと直行してきたのだ。メイド服は標準的成人女性といえる身長と体型の八重にピッタシと言えなくても、不自由はしないサイズだ。頭には白い髪留めがショートヘアーに乗っている。彼女は友人の感激した様子に、酷く居心地が悪い。

「う、うれしいなー」
「もう、早いとこ済ませて帰るからね」

心底感激している勇の視線から逃れるために、八重は階段を降りて台所へと向かう。当然のことながら勇も、後をピタリとつけて行く。

「物が噛めないから、流動食でいいわね?」
「うん。よろしくお願いします」

八重は実際には、この年まで料理などほとんどした事が無い。だが彼女は調理実習や母の台所での調理している姿の記憶を元に、必死に調理する。元々、おかゆなどは難しい料理でも何でも無い。勇が見守る中、彼女は余っていた白飯でおかゆを作ってしまう。

「さて、できたっと。早速、食べてくれる」
「ありがたく頂きます」

八重は鍋をダイニングのテーブルに運び、ソファに座った勇の前におかゆをよそって、その上に梅干を乗せてあげる。勇はすぐに散り蓮華を手に取り、どろどろになったご飯をすくう。

「おいしそう、いっただきまーす」
「あ、慌てない方が・・・」
「あ、あちち」

思いっきり口に含んだ勇が、その熱に舌を焦がす。八重が近くにあった ティッシュを口元に当て、吐き出させる。

「もう、ゆっくり食べなくちゃ」
「いや、こんなに熱いとは思わなくて・・・」
「呆れたわね。そんな事もわからないの?」

八重は散り蓮華を手に取ると、おかゆを一すくいお椀から取って唇の前に持って行く。軽くニ、三回息を吹きかけると、勇に差し出す。

「はい、これでいいでしょ」
「あ、ごめんね」

パクリと勇は程よく冷めたおかゆを、彼女の手により口に再度入れる。

「おいしいー・・・幸せだな・・・」
「そ、そう?普通のおかゆなんだけど」

大げさとも取れる勇の反応に、八重は喜べども悪い気はしない。機嫌が良くなった彼女は、ついつい自分の手で勇に食べさせてしまう。午後の昼下がりのひととき・・・大きな窓から射す五月の淡い日の光を浴びながら、二人は共に幸せな時間を知らず知らずの内に共有する。穏やかな時が緩やかに流れる。

「ただいまー」

お椀のおかゆが丁度無くなった所で、何処かへ出かけていた勇の母が扉を開けて入ってくる。全然、気配も感じていなかった二人は驚きで、散り蓮華を口に運ぶ所で動きが凍ったように止まる。

「は・・・八重ちゃん、その格好どうしたの?」

勇の母、智子も息子の友人である八重の奇妙な格好に口を開けてポカンとして、お互いに見詰め合う。八重の頭は混沌とした思考が渦巻き、パニック状態になる。

「お、おばさん、これは、あの、その・・・」
「八重がさ、物がよく食べれない俺のためにメイドになって、おかゆを作ってくれたんだよ」

八重の事など気にせず、勇はあっさりと理由をばらす。それに智子は更に目を丸くする。

「八重ちゃん、ごめんなさいね。息子が変なこと頼んだみたいで・・・」
「いえ、元々私が勇を殴ってしまったから・・・」

八重の頬は見事に真っ赤な色に染まる。そんな彼女の様子に智子は少し 考えると、笑顔を見せる。

「私はお邪魔みたいだから退散するわ。ゆっくりしていってね、八重ちゃん」
「あ、違うんです」

智子は意味深げな笑顔を見せると、再び扉から出て行く。八重は彼女が部屋から出ていっても、まだ頬が赤くなったままだった。

その後、勇は八重に全部おかゆを食べさせてもらうと、満足そうにゆっくりと息を吐く。

「ごちそうさまでした」
「お、お粗末さまでした」

頭を下げる勇に、八重は慣れないながらも自分も頭を下げて返事を返す。勇は心底幸せそうな顔をしており、八重はそんな彼の様子に少し戸惑ってしまう。

「いやー、うれしかったな。八重におかゆを作ってもらって」
「べ、別にたいしたことじゃないわ」
「こんなメイドの奥さんが貰えたら、幸せだな・・・」

八重の瞳を深淵まで覗きこんで言う勇は口調こそいつもの通りだが、彼女には今まで見た事が無いほど真剣な表情だ。その雰囲気に、ゆっくりと八重は飲みこまれる。

「勇はメイドさんがそんなに好きなの・・・」
「八重にメイドさんになってもらったのがうれしいんだよ・・・」

消え入るように小声で二人は囁きあい、お互いの声を聞き取るために顔が接近する。引力に引かれたように、二人の唇がそっと合わさる。互いに恥ずかしさなどは無い。ただ、とてもごく自然なことで、勇から幸せが八重にあふれんばかりに注がれる。二人は身動きせず、時計が奏でる針の音だけが響く中、長く長く相手の唇を味わう。やがて、八重の中にある心の器が満たされると、二人はそっと離れる。

「あ、あの、あたしもう帰るから。また明日学校でね」
「わかった。また明日会おうね、八重」

離れると同時に一気に心臓が爆発しそうに速くなった八重は、慌てて立ちあがる。それに勇はいつもの笑顔で小さく手を振る。八重は猛スピードで扉から外へと、消えて行った。

「はあ、はあ、ただいま・・・」

頭が真っ白になり、八重は気がつけば自宅まで全力疾走していた。玄関で身をかがめ、大きく彼女は息をつく。

「おかえりなさい。おやつあるわよ」

台所から彼女は母の声を聞く。息を落ちつかせようとしながら、彼女は台所へと向かう。台所で包丁を使っていた八重の母は、ちらりと見た彼女の姿を見て唖然とする。

「八重、その格好はどうしたの?制服は?」
「あ・・・」

八重は自分の姿を見下ろして、黒いフリフリのメイド服にしまったという顔をした。